RESEARCH研究紹介

 私たちの暮らしを支える“プラスチック”は、軽くて加工しやすく、金属やガラスではできなかった働きをしてきました。しかしその原料である石油資源は限りがあり、環境にも負荷をかけています。

 このような背景を受け、私たち京都工芸繊維大学 先端ファイブロ科学専攻 機能材料研究室では、「高分子材料の耐久化」「フィルムの接合技術」「天然素材を活かした機能材料」の3本柱で研究を進めています。プラスチックを使い続けるために長寿命化を目指し、エネルギー消費を抑えた加工技術を追求し、さらには天然素材・再生資源へと活路を広げています。

 その基盤には、ナノスケールの構造を自在に設計し、物性を精密に評価する「材料科学」があります。当研究室は、これらの技術により、企業との共同研究も数多く行っており、新しいテクノロジー創出を目指し、日々研究を推進しています。

01

「壊れやすいプラスチックを、もっと長く使えるように」

 軽くて加工しやすいプラスチックは、身のまわりのたくさんの製品に使われています。しかし実は、紫外線・高温・湿気といった“環境の力”にさらされると、強度が落ちて壊れてしまうことがあります。そこで私たちは、プラスチック製品をあえて過酷な環境(高温・高湿・紫外線)に置き、どう壊れていくかを“加速劣化試験”で調べています。

 さらに注目しているのは、「壊れ始めたプラスチックの内部がどう変化しているか」を、光る信号(蛍光)や分光法で“触らずに”観測できる技術です。未来には、毎日使っている樹脂製品の“寿命予測装置”につながる、もっと簡単な測定法の開発を目指しています。

プラスチック材料の劣化評価グループ

【関連論文】

1."Development of Glossy and UV-Resistant Urushi Coatings by Thermal Polymerization", Chieko Narita, Kazushi Yamada*, Progress in Organic Coatings, 186 (2024) 108032. (https://doi.org/10.1016/j.porgcoat.2023.108032)

2."Effect of surface treatment of cotton fibers on the durability of polylactic acid/cotton-fiber biocomposites", Linmei Zhang, Jiaru Zhou, Hiroki Sakamoto, Kazushi Yamada*, Advanced Composite Materials (2022) 2055515. (https://doi.org/10.1080/09243046.2022.2055515)

3."Influence of residual chlorine and pressure on the degradation of water pipes of polyethylene of raised temperature", Takehiro Fujii, Hideo Hirabayashi, Yuichi Matsui, Kazushisa Igawa, Hidekazu Honma, and Kazushi Yamada*, Polymer Degradation and Stability, 194 (2021) 109760. (https://doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2021.109760)

その他詳細リストは、こちらを参照ください。

02

「パッケージの“ヒミツ”を解き明かす:フィルムをピタッと貼る技術」

 お菓子の袋、レトルト食品、紙コップ…こうした“日常のパッケージ”の多くは、透明フィルムを熱で貼り合わせる“ヒートシール”という技術で作られています。でもその加工には意外と多くのエネルギーが使われていて、低温でもしっかり貼れる技術があれば、省エネ・低コストになります。

 私たちの研究室では、プラスチックフィルムを“より低温で”“より強く”貼り合わせるための方法として、インパルスシールやレーザ溶着という最新技術を研究しています。国内でもこの分野を本格的に学術研究している研究室は限られており、日々新しい接合技術の開発に取り組んでいます。

フィルム接合グループ

【参考論文】

1."フッ素樹脂異種材の表面無損傷レーザ溶着―PFA とPTFE の溶着―", 佐藤 公俊, 山田 和志, Vol.35 No.2, 成形加工 (2023), 63-70. https://doi.org/10.4325/seikeikakou.35.63

2."A novel methodology for peel strength enhancement of heat-sealed oriented polypropylene/cast polypropylene film by tensile cyclic loading", Kazushi Yamada*, Ken Miyata, and Ramanujam Kumaresan, Materials Chemistry and Physics, Vol.187, pp.112-118, 2017. (http://dx.doi.org/10.1016/j.matchemphys.2016.11.054)

その他詳細リストは、こちらを参照ください。

03

「自然のチカラを機能に変える:伝統素材×ナノテク」

 いま“バイオマスプラスチック”や“天然繊維”など、自然由来の素材に注目が集まっています。私たちの研究室では、シルク(絹)や漆、和紙といった伝統的な素材を、ナノレベルの繊維や薄膜にまで分解・再構築し、新しい機能を持たせる研究を行っています。たとえば、絹フィブロインを細かいナノファイバーにし、構造や性質を原子間力顕微鏡で観察した経験を土台に、天然素材を活かした複合材料の開発に取り組んでいます。

 合成プラスチックに頼らず、植物・海藻からとれる多糖類や天然ナノファイバーを用いて「軽くて強い」「環境にやさしい」材料づくりを目指しています。さらに、光・熱などの力を加えて、天然高分子薄膜の表面や内部の構造がどう変化するかを探りながら、未来のナノコンポジット材料へと展開しています。

天然高分子薄膜グループ

【関連論文】

1."Development of Glossy and UV-Resistant Urushi Coatings by Thermal Polymerization", Chieko Narita, Kazushi Yamada*, Progress in Organic Coatings, 186 (2024) 108032. (https://doi.org/10.1016/j.porgcoat.2023.108032)

2."Improving the lightfastness and thermal stability of black urushi (oriental lacquer) by kraft lignin oleate", Takao Tsuchiya, Chieko Narita, Kazushi Yamada, Adrian Moreno, Mika H. Sipponen, Hitomi Tsuda and Yoko Okahisa, Journal of Wood Science, 69, Article number 28 (2023). (https://doi.org/10.1186/s10086-023-02101-5)

3.""Characteristics of urushi film prepared through thermal polymerization", Chieko Narita, Yoko Okahisa, Saori Kitaguchi, Kazushi Yamada, Journal of Coatings Technology and Research (2023). (https://doi.org/10.1007/s11998-022-00745-4)

その他詳細リストは、こちらを参照ください。

ページの先頭へ